2014年3月18日火曜日

Donald Fagenの"The Nightfly"をエンジニアリング的な側面から聞いてみた。


最近はモニタースピーカーというとにかくフラットな状況下で音楽を聞いてマスタリングやサウンドチェックのための耳を養おうと試みている。

今日は師匠がマスタリングのリファレンスに使っているKing Crimsonの"People", Pat Methenyの"Facing West"と比較していろいろと聞いてみた。

特に考えさせられたのはDonald Fagenの一作目のソロアルバム、"The Nightfly"収録のI.G.Y.
世界で初めて全編デジタルレコーディングで作られた作品で、内容のみならず、エンジニアリング面でも高く評価されている。
そのため、リファレンスに使っているPAエンジニアさんは多いという話を良く聞く。

実際に聞いてみるとベースやドラムの細かいところまで良く聞こえる。
キーボードなどの伴奏楽器とボーカルもどちらかに偏ることなくしっかりと聞こえる。
全体的に偏った帯域はなく、非常によく作られていると思う。

しかし"People"と比べると透明感というか音のクリアさが少し足りないように思った。
高域が少し削がれているのだろうか。
その点でI.G.Y.の方が若干ローファイに聞こえる。

制作年代が大きく違うからだろうか。
FagenやSteely Danの2000年代の作品も聞いてみた。
エンジニアリングの方向性はどれも変わらないと思う。

Fagenは一曲ごとに参加ミュージシャンを厳選し徹底したコントロールのもとで制作を行う完璧主義者で有名だ。
そんな彼がミックスやマスタリングに関与していないのは考えづらい。
むしろ"The Nightfly"でデジタルレコーディングに世界で初めて踏み切ったことを考えればエンジニアリングに関しても相当意識が高かったことが考えられる。
その点を鑑みれば、近年の作品まで同コンセプトの音作りをしているのは高域を少し犠牲することでFagenの声が映える帯域が押し出されているのではないかと考えられるだろう。

加えて音楽そのものの印象から考えても、Steely Danの作品が透明感溢れるみずみずしい音であったならちょっと場違いな感じはしてしまうだろう。
都市の闇を纏ったような真摯で辛辣なFagenの曲と声は少しくぐもったようなサウンドの中でこそ、さらにストレートに耳に届くのかも知れない。