2015年12月15日火曜日

ミュージシャンとしてのマスタリング

今回、師匠と一緒にマスタリングの作業をさせてもらった。
やはりこの作業は本当に好きだ。
リズムやトーン、音使いといった演奏、作曲とはまた違ったサウンドという違う側面から音楽に神髄を探っているような感じだからだろうか。

「エレキはアンプとセットで1つの楽器だぁ」などと言う表現があるが、録音作品は演奏だけでなくTDやマスタリングなどのエンジニアリングとセットで1つの作品となる。
つまりどんなに素晴らしい演奏が記録されていてもエンジニアリングがいまいちであればその魅力はスポイルされてしまう。
逆にエンジニアリングによってはその魅力をさらに増幅させることもできる。

さて今回興味深かった点はパーカスのイコライジングだ。
コンガの底面にマイクを立てて拳で叩き、バスドラと民族楽器のあいのこのような低い音を入れた。
以下バスコンガとでも呼ぼう。
この低音が全体を包み込むようでとても良い感じ。

そこからこの音色補正。
どうするか。
そのままでは少し野放途なのでやはりコンプやEQでまとめねばならない。
しかしいざコンプをかけるとローフィルターをかけたように低音がカットされてしまう。
スレッショルドの値が弛くても同じ。
これは意外な結果だ。
空気が振動するバフンとした低域が削られている。

通常こうした超低域はEQでカットしてしまうことが多い。
ボーカルの息の音とかピエゾ入りのブリッジにドンと手があたる音とか。
そうした音は演奏には不要のノイズとしての面が多いからだ。

従って今回のバスコンガの音も同様にコンプののち低域をカットし、締まりのある音にしようと思っていた。
それがコンプだけで終わったという話だ。

しかしここで師匠と協議。
これでいいのか本当に?

僕は前述の通りコンプで音量も安定したし、低域も削れてまとまりのあるクリアなサウンドになったと思った。
一方師匠はあの削れてしまった低域が暖かみと賑やかさを加えていたのではないか、とのこと。
つまりコンプにせよEQにせよバスコンガの低域をのこしておいた方が音源の良さが引き立つとのこと。

そこを踏まえて聴き比べてみると確かに低域を削るとクリアでこそあれなにか寂しい感じがする。
エンジニアリングというと音をクリアにするという観点で作品と向かい合ってしまいがちだが、作品が持っている、あるいは求めている質感やダイナミズムを捉え、そこを引き出してあげなければいけない。
そういった「ミュージシャン的なマスタリング」という観点を今回の作業で自分の中にインストールすることができた。

というわけで、コンプはスレッショルドをどんなに弛めても低域が削れるので却下。
しかし、何かしらで音の粒は揃えねばいけない。
そこでリミッターをかけて大きな音を叩く。
全体が小さくなった分はミックスの音量を上げて補正。
これで低域はそのままにだいぶ音量が安定。

エンジニアリングも須くミュージシャンとしての感覚を以て臨むべし。

[Sonascribe Live]
2016年 2月2日 19:00 吉祥寺スターパインズカフェ
詳しくは
http://yosuke-hayashimoto.blogspot.jp/2015/11/201622-acousphere-record-artsists-cd.htmlへ!