2015年9月28日月曜日

Pat Methenyの秘密に挑む インポジションへの執拗なまでのこだわり





Pat Metheny Group、Live In JapanのHere To Stay、ソロ部のワンフレーズを採譜しました。ここから見えてくるパットの運指に対する考えを考察しましたのでフレーズのコンセプトと共に紹介したいと思います。

こちらのフレーズはソロ部の最初の方、2:04あたりからのフレーズです。
Amのワンコード上をAマイナーペンタトニックで攻めるというシンプルな音使いです。
ただ一点、譜例の3小節目の4番目の音、2弦7フレットのメジャー6thの音がペンタにない音になっています。
普通ならば2弦8フレットの7thの音を選択しそうな流れですが、そこをメジャー6thにすることで、いかにもペンタ、ブルーズ、という匂いを避け、違うカラーを入れたかったと思われます。

ドリアンスケールを使っているともいえますが、前のフレーズからペンタのフレーズが強く意識されていること、ドリアンを決定づける6thの発現が遅いことから、ペンタ+6thと考えた方がすっきりすると思います。

さてこのフレーズで特筆すべきはその運指。
チョーキングをする最初の音を除いて、10フレットは全て小指で弾かれています。
そして8フレットは中指で押さえています。
すなわち7フレットから10フレットにかけてのインポジションで弾かれているとい言えます。
このインポジションならば7フレットのメジャー6thにも自然と人差し指でアクセスできます。
最初の10フレットのチョーキングの後、わざわざ小指に持ち替えているのが確認できますし、フレーズの発現時からこのインポジションで弾く、6thにアクセスするというのを決めていたのだと思います。

それにしても2小節めの1弦12フレットから2弦の10フレットへ同じ指で跳ぶのはなかなか選択しえないでしょう。
そしてその1弦12フレットと2小節目3拍目最後の10フレットは半音下からのスライドアップですが、ここも容赦なく小指です。
また8フレットが中指なのでこの中指、小指と繰り返される流れも少しきついですね。

ここから見えてくるのはパットのインポジションに対する徹底した姿勢です。

パットの左手のフォームは薬指の向かいに親指を置くやや特殊なものです。
このフォームでは親指を支点にして小指を大きくジャンプさせられるので、1つのポジションにいながら、高音側のフレットの世界を大きく拓くことができるのです。
1弦12フレットの音もこのフォームだからこそ出てきた音だと思います。
小指の連続した動きは「インポジションからストレッチなどで外れた指は速やかにもとに戻す」というインポジションの基本を徹底した結果です。
その結果、小指が忙しくなってもそこは鍛錬でカバーする、といった具合でしょうか。

インポジションは元来、正確に音階を弾くためのコンセプトですが、パットの場合はそのポジション取りがフレーズ展開の土台にもなっていると言えるのではないでしょうか。
このフレーズは2弦7フレットを人差し指で取ることを見据えたインポジションで小指側を拡張して展開したものであるといえるでしょう。

この執拗とも言えるインポジションへのこだわりがパット・メセニーのプレイを形作っていると思います。