2014年8月2日土曜日

人生が音楽を造る。


キューバの老ミュージシャン達にスポットを当てたドキュメンタリー、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のDVDをみんなで見る機会があった。
アメリカのギタリスト、ライ・クーダーがプロデュースし、長年、世界に向けて発信されることのなかったキューバの老ミュージシャン達を世に送りだした作品だ。

アムステルダムのライブから始まって、最後はカーネギーホールでの割れんばかりの拍手で幕を閉じる。
その間に一人一人のミュージシャンが各々のヒストリーや人生についての考えを語ってくれる。
この映画の素晴らしい点は音楽のみならず彼らの人生を垣間みることができる点だ。

メインボーカリストの一人、イブライム・フェレール。
少年期に母を亡くし、一人で激動のキューバを生き抜いてきた彼。
母親が信じていた神様をかたどった杖を肌身離さず持ち歩き、家には祭壇がある。
毎日の暮らしへの感謝を忘れないという彼。
祭壇にはラム酒。
「俺が好きだからきっと彼も好きだ」とお供えをするイブライムは無邪気でとても素敵だ。

自分が慎ましやかに信じるものと共にある生活。
その中には音楽もある。
その暮らしに彼は感謝するという。
でも何度も音楽をやめようと思ったという言葉にイブライムの人生の過酷さを感じてしまう。
彼の口からはさらりとしか語られていないけれど、しわがれた深い声と刻まれた顔の皺がそう思わせる。

彼の歌と共にキューバの町並みが映される。
想像をかき立てられる。
一人で生き抜いた少年時代、母の面影と共にずっと持っている素朴な信仰心。
街角で歌い続けていた日々、それを辞めようと思っていた日々。
彼の辿ってきた人生がそのまま彼の声に刻まれているようで、聴くほどに魅入られてしまう。
ライ・クーダーもきっと音楽だけでなく、彼の人生そのものに魅入られていたのではないのだろうか。
音楽と人格は一体で、人格はそれまで辿ってきた人生によって作られる。
良い音楽とはその人のヒストリーが詰まっているもののように思う。

映画の最後で、彼は夜のニューヨークを感慨深げに歩く。
「ずっと憧れていたんだ」という台詞がとても好きだ。
信じたものをずっとやり続ける。迷っても、心が折れそうになっても。
憧れのニューヨークでのステージと世界の賞賛はそうして築き上げてきた彼の人生によって成し得たものだ。
人の心を動かせるような人生、そんなものを目指して僕も自分の信じたものをやり続けていきたいと強く思う。